朝日新聞記事「路上に暮らす人々B」より


(要約: 定年後、わずかな手持ちのお金を盗難により失った東さん(仮名)は、やむを得ず路上生活を始めることになったのだが、仲間から教わって福信館を訪ねた。)  彼らへの炊き出しご飯をここで作っている。司祭の竹谷基さんから誘われた。九月から、春日井市の畑で野菜作りを一緒にやらないかというのだ。  作業のメンバーは、東さんを含めて六人。週に一回、草取りをしたり、水をまいたりしている。この七日は、先週に引き続いてトウモロコシの種をまいた。約五百平方メートルの畑にトウモロコシ、ジャガイモ、タマネギを育て、炊き出しの材料に使う。  農作業でお金がもらえるわけではないが、東さんは、自分が育てた野菜をみんなに食べてもらえるのがうれしいという。芽を吹いたばかりのトウモロコシに目を落として言った。「働くってのは楽しいね」  気になるのは、別れた息子のことだ。  「もう結婚していることだろう。いまのままでいきなりおやじが現われたって、息子が困るだけ。幸せな生活を壊そうとは思わない。」  就職できる日がくるまで、連絡しない。東さんはそう決めている。  昨年、ボランティア団体が路上生活者の聞き取り調査をした。答えた六四人のうち、四三人が野宿の原因を「失業」と答えた。日雇い仕事をしている三六人の六割は過去六カ月で働いた日数が四五日以下だった。 〈朝日新聞一九九六年六月一三日夕刊より転載〉
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