「真理があなたがたを自由にする」

 私たちには予断と偏見がつきものです。古くは、ナザレのイエスに対し、当時の 宗教指導者たちは偽預言者、?神者と見なしました。また、今回の米国へのテロ 事件においても、米側の主張を鵜呑みにすれば、イスラム過激派は悪の権化のレ ッテルを貼られ、対話の可能性は奪われ、世論を武力報復もしかたないとコント ロールされてしまいます。
 しかし、イエスの福音は私たちをその予断と偏見から解放します。「真理はあな たたちを自由にする。」(ヨハネ8・32)愛をもって人々と接することによっ て、対話が生まれ、新しい関係が築かれます。
 逆に、敵意や憎しみは関係を閉ざし、「欺きが人間を呪縛する」のです。
 さて、小泉首相はさる7月26日、「こじきも新聞読んでいる。ホームレスでも」 とサミットの場で発言しました。この発言は世間にあるホームレスへの予断と偏 見、即ち、「ホームレスは怠け者、好きでやっているから、彼らを助けることは ない」を助長し、ホームレス当事者たちをますます窮地に追い込むものとなりま す。首相の発言の真意はわかりませんが、察するに、日本の教育水準の高さ、ひ いては、日本の政治経済それほど素晴らしい、と言いたかったのだと思います。
 しかしながら、私は逆ではないかと思います。なぜなら、字も読めないばかりに ホームレスにならざるを得ない人のいる日本の政治経済は何かおかしい誇れない と思うからです。
 炊き出しの列に並んでいる60代半ばの男性のホームレスに聞きました。「景気 はどうですか。」「いや、さっぱりだ。若いもんしか乗せてくれないからな。」 「おじさん、日雇いは長いの」「そうさな、50年位かな。戦後ずっとそうだ よ。」「だって、ほら、戦争中、『空襲だ、』と言って、逃げてばかりいて、さ っぱり勉強できなかったから、読み書きできなくてよ、就職できないから、日雇 いしか仕事なくてなあ。」おじさんは国家による戦争の犠牲者だったんです。読 み書きを習得できなかったばかりに、高度経済成長期の安価な労働力である日雇 い労働者とでしか生計を立てられなかったのです。そして、高齢に不景気も重な り雇われなくなって、ついに、ホームレスになるしかなかったのです。
 ホームレスから生活保護でアパートに暮らせるようになった50代の男性に話しを 聞きました。「今度、選挙あるけれど、おれ、行けなくてなあ。」「どうしてで すか。」「字読めないし書けないんだよ。」「おれは、炭鉱育ちでね、学校は青 空教室、でも、ろくに、学校行かず、毎日、親父やお袋に炭鉱の手伝いやらされ たよ。真っ黒になって、朝から晩まで。そうしないと、食って行けなかったから なあ。」「今でも、電車やバスに乗れないんだよ。行き先読めないから。だか ら、出かけるのもおっくうなんだ。」このおじさんは敗戦後の経済的貧困、福祉 政策の不備によって義務教育すら満足に受けられず、読み書きに不自由し、ホー ムレスになってしまったのです。彼らは怠けてホームレスになったのではないの です。むしろ、日本の政治経済の犠牲者なのです。
 残念ながら、私たちは予断と偏見から自由になれず隣人との新たな関係を作るこ とに恐れています。しかし、前回、報告した学生らの感想からも、それを打破す るには「出会いと交流」の必要を痛感します。イエスの宣教は出かけて行って、 会った人々との交流を大事にしたことではないでしょうか。重い皮膚病のサマリ ア人の中に本当の信仰を見出したように。このように私たちの宣教も「真理が自 由にする」ことになるよう祈ります。
 (8月には、舛添要一がテレビ番組で「ホームレスには糖尿病の人がいる。」と言 っていますが、これも、小泉発言と同様にホームレスへの誤解と悪意に他なりま せん。)


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