「戦争法」反対

名古屋ダルク後援会代表 竹谷 基


 

「万緑」、「風薫る」と詠われる五月の爽やかさ(近年は温暖化で暑いけれど)と比して、今日の世界、足元の日本の状況には重苦しさが漂うのは私だけでしょうか。例えば、一ヶ月に10万円以下しか使えない人(相対的貧困)が六人に一人になった、非正規労働者が全労働者の約4割(女性は約6割)となった。また、「一つのラーメンを半分にして食べている」「空腹で夜眠れない」、「一日100円で6人ですよ。土日給食ないからね、どうする?って」の子どもの貧困の現状とかが報道されると心を痛める。このような格差の拡大、貧困者の増加、それによる、不平不満の増大を、まず、何とかしなければならないのに、現日本の政治は戦争する国に作り替えることを急いでいる。(戦争によって軍需産業が儲かり、そのおこぼれに庶民が与れる、と言うトリクルダウンを考えているかもしれない)から、一層気が重くなる。しかし、中東はじめ各地の紛争は軍事力では泥沼化の一方で、和平への見通しは立たないし、常に犠牲者となるのは女性・子どもの一般市民でしかないから、安倍首相の言う自衛隊の海外派遣は「国民の生命、生活を守る」ことにはならない。ダルク後援会、ホームレス自立支援に関わっている私から見れば、戦争は障害者、ホームレスを生み、(米国のベトナム、イラク戦争等の帰還兵50万人がホームレスになった、また、140万人以上がPTSDなどの精神疾患で苦しんでいる、との報告がある。)映画『火垂るの墓』では戦災孤児、ホームレスとなった幼い兄妹を誰も助けず、餓死して行く様に誰しも心痛めたはずではないか。障害者にはお国の「穀潰し」「役立たず」と差別を強めるばかりだから、今回の戦争法案「安全保障法制」には絶対反対する。けれど、現日本の政治情勢からは暗い気持ちにならざるを得ない。

キリスト者と「戦争法」 

さて、私はキリスト者であるから、キリスト者として今回の戦争法案にどう向かい合うべきかを考えたい。何故なら、よく、キリスト者は政治には口をだすな。ひたすら、心の平安と死後の救いだけに専心すればよい、と非難されるから。今一度、キリスト者とは何であり、集まっている教会とは何かを改めて考えてみたい。

今から約2000年前、ユダヤのナザレ出身のイエスの生き様に触れ魅力を感じた人が、イエスをリーダーとして、彼の始めた運動に参加した者たちがいた。キリスト者とは彼らの後について行く者であり、その群れを教会と呼ぶ。(元々、「教会」の語は建物ではなく、呼び集められた者を言う。従って、秩序立てられた組織ではなく、自発的、平等、参加自由な流動的な運動体だ。)それでは、イエスの始めた運動とは何か。そのスローガンが所謂、『主の祈り』と呼ばれ、キリスト者が四六時中唱えている祈りだ。弟子たちは朝晩イエスと一緒に、繰り返し唱えて自分たちが何者であり、何をするために集まっているかを確認した。キリスト者にとっても同様に唱える。

イエスとガリラヤ

イエスはガリラヤ地方で活動した。ガリラヤは古代オリエント世界で唯一雨の降る食糧生産地であり、東西交  易ルートの中心地であった。それゆえ、5000年前から今日までずっと大国による争奪戦の地域となっている。イエスの時代はローマ帝国の植民地となり、重税により莫大な借金を負わされ大多数の農民は畑を手放し農奴、ホームレスとなった。更に、ユダヤ教からは複雑・膨大な律法を負わされ、守らないから「罪人」と呼ばれ差別されていた。イエスはそのガリラヤの極貧層(裸で飢え病気、囚われの人たち)の中に入った。税金、律法の重荷に押し潰されていた貧しい人たちは、神の直接的介入、メシアを待望し、政治・経済的抑圧からの解放を望んでいた。そこで、イエスと弟子たちは自分たちの運動が何を目指すべきかを「主の祈り」として唱えた。

その中心は、日毎のパンが今日も与えられるように 負債が免除されるように です。ガリラヤの重荷を負わされた人々の切実な願いに応えようとしたことが分かる。そのためには、彼・彼女らに重荷を負わせる政治・社会構造(当時は宗教と一体)と対峙することになる。イエスの十字架刑に至ったことは当然となる。つまり、「主の祈り」を唱えることは、抑圧する政治・社会構造の変革を目指すことに他ならない。無論、その過程には様々あるであろう。キリスト者はこの運動に加わるのだ。誰もが平等に自由に生きられる社会を目指して。

今、日本は重大な岐路に立たされている。平和か戦争か、自由か奴隷か。キリスト者は「主の祈り」を唱えながらどちらを選ぶのだろうか。

ダルクを支えてくださるみなさま、どうか、戦争の道、障害者差別の社会にならないよういっしょに考え力を合わせて行きましょう。

特別寄付振込口座
三菱東京UFJ銀行 黒川支店 普通 3684099
特定非営利活動法人 名古屋ダルク 理事 柴 真也


戻る