福音宣教,共助組合

萩原 脩 (一宮教会)

   まず「福音の精神にしたがって生きているか」と問われると到底自信がありません。 共助組合には受洗した前後からJOC(カトリック青年労働者連盟)のメンバーの一人として参加しておりました。結婚を契機にJOCから離れたころ、一宮教会では、有志が信徒として何かを教会アクションとしてしなければならないとの熱意と機運があり、第二バチカン公会議が開催している最中でもあり、私どもに出来ることはないかと模索しておりました。福音宣教といった意識は全然していませんでしたが、そうした環境の中でこの共助組合運動を始めたのは信徒として必然だったかもしれません。主任司祭のマクドナルド神父の紹介で長崎佐世保俵町教会から、定款等を取り寄せて約1年、試行錯誤、勉強をして「一宮カトリック教会共助組合」を1963年3月に発足、今日にいたりました。始めるにあたって、はたして借りる人がいるだろうかと危惧しましたが、心配は無用、杞憂でした、

 一宮のキリシタン達は仏教徒から借金責めにあい、信者同志がお金を出し合って借金の返済をした記録が残っています。お金は天国に持っていけなかったからでしょうか。

 お金を道具として相互扶助、助け合いの中に福音を見出すということではないでしょうか。出資、利用、共同経営参画、メンバー同士の係わり合い、出資の協力依頼、滞留貸付組合員に対する督促の電話、手紙、訪問、間違えて土足で上がることもあり、苦い経験もしばしば、未信者との接触もありその中に福音化を無意識の中に求めていたかも知れせん。窓口を開けているといろんなことが飛びこんでまいります。子供の教育、親子、夫婦関係、相続、当然のことながら借金苦、自己破産等様々です。すべてが順調に進んでいる訳ではありません。失敗も多く、その人、組合員のために必死に祈り、眠れないこともあります。隣人愛を実行しなさいと神は言われるかも知れませんが、人に奉仕することは難しいことです。この運動を通じて感謝の言葉が返ってくるとホットします。また勇気づけられます。奉仕することは、最終的には自分のためでもあります。

 お金の貸借にはいろんな要素が含まれています。それらのうち行政が解決することも多いでしょう。行政の立場からきめ細かく動くことには限界があります。その谷間を少しでも埋め、補う組織が地域社会にあってこそ明るい社会になると思います。共助組合に相談に見えた方を市の福祉課に紹介、生活保護申請や民事再生への手続きを助けます。行政の仕事を補うのは非営利組織、農協、生協など本来信用協同組合で、組合員が出資し助け合い暮らしを守ることを目的としています。共助組合もその一つです、あくまで人格を尊重して自立を少しお手伝いするのが、私達の使命です。

非営利組織については東北大震災以後の活躍はご存知の通りです。

 日本共助組合運動は幾多の変遷を経て、規模が縮小されましたが、全国で現在14支部、組合員約2400名、純資産は約5億円あり、それぞれ各地で活動をしています。2010年に施行された改正貸金業法は、適用規定を一部除外されているとはいえ、共助組合にとっては弊害もあり、足かせになっているのも事実です。20年ほど前に貸金業の規制の範疇に組み入れられて以降、新設組合は皆無で、組織の担い手の高齢化、共助組合本部の資金運用の失敗等があり、教会、組合員の信頼はやや薄れましたが、本部事務局体制を改革、財政再建に取り組み、困難を乗り越えて再生の道を力強く歩いています。

 今一度共助組合の精神的基盤を考察したいと思います。

 信仰から生まれた共助組合、教会の中に、共助組合のような金銭の貸借を行うことが許されるのか、その答えはこの運動の歴史が自ら語ってくれます。

 全世界の信用協同組合の祖と仰がれているライファイゼン(ドイツ、プロテスタント)と共助組合の基礎を築いたデジャルダン(カナダ、カトリック)の二人とも協同組合運動こそ隣人愛の教えを地上で実践するための神の御心にもっともよくそった運動であることを確信し、その信仰に支えられてこの運動を創始しその発展に献身したのです。彼らは「祈りを共にする共同体」「心を一つにして喜び」「物質的にも互いに助け合う」キリスト共同体を広め貧しい人たちを救おうとしたのです。

 弘前の故ヴァレイ神父が「共助組合は〈愛の実践〉〈愛の出資〉であり、この運動の発展の一番の妨げは利己主義である〉と言われたことが印象に残っています。「お腹の空いている人は祈りをすることが出来ない」しばし名言です。

 もともと共助組合運動は教会だけではなく、地域社会や中小企業等弱者の人々の中に広めることであった、現在は外国人労働者の中にこの運動を伝えたいと考えています。個人が福音化することは、社会が福音化することであるし、逆に社会が福音化することは、個人の福音につながるといえます。(越前喜六神父の言)

 日本共助組合の基本思想は次の通りです。すなわち「日本共助組合は、隣人愛、正義、公正のキリスト教精神を基本とし、教会の内と外において、組合員の自立共助に役立つ、人間尊重の経済活動を実践します」

 地域社会との関わりの中で、あらためて隣人は誰かを問いつつ、聖書、日本の文化、先駆者、歴史から学びつつ、泥臭く、祈り、実践していくことが、いささかでも共助組合運動の絆の強化と福音化に繋がればよいと思っています。

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