「今日一日だけ」

名古屋ダルク後援会代表 竹谷 基


 私たちクリスチャンは日常的に『主の祈り』(マタイ5913、他)の祈祷文を唱える。太田道子さんはその『主の祈り』はイエス運動の「合言葉」だ、クリスチャンは口にするたびにイエス運動が何を目指し、それに加わる自分が何をすべきかを確認するのだと教えられた。

 さらに、その中の一句「必要な糧を今日与えてください(マタイ5・10新共同訳)」(イエスの関わったガリラヤの貧しい人たちの切実な願い)の背景には旧約聖書の出エジプトの「荒野の旅」物語があると言う。

 周知のように、出エジプトはイスラエルの民が奴隷から自由人になるため荒野の旅をした物語だ。その途中で、奴隷の時は食べられていた食物が自由人になったとたん、欠乏した。人々は嘆いた「奴隷の方が良かった」と。

 自由人として食に困らないようにするにはどうしたら良いのか。神の恵まれる食料(無条件。ヒエラルキーの王からではない)を「あなたたちはそれぞれ必要な分、つまり一人当たり一オメルを集めよ。(出エ1616新共同訳)」と神が方針を示されたのだ。

 しかし、案の定、ある人は聞かず明日の分を搔き集めたのだ。結果、神の警告どおり、余分に集めた食料は腐ってしまった。人々が神の指針「各自必要な分、一オメル」を守ったとき、荒野の40年間人々は飢えなかったと言う(出エ1633)。この物語から、奴隷とは限りなく搔き集め、蓄える人であり(弱肉強食)、自由人とは足るを知り、結果的には他者の分を残す人(共生)であると教える。2,000年以上前の古代の物語にもかかわらず、何か、現代世界を象徴しているではないか。

イエスはガリラヤの人々の貧困、飢えの原因を支配者・富者の貪欲、強欲にあると見て、彼らが神の言葉に立ち返り、「今日の糧」がガリラヤの誰にも与えられる運動をしたと言う。

 また、イエスや富者、ユダヤ人ならば誰もが朝夕唱えたシェマーの祈り「聞け、イスラエルよ。われらの神、主は唯一の主である。あなたは心を尽くし、魂を尽くし、力を尽くして、あなたの神、主を愛しなさい」について、神は次のように教えられる。「今日、わたしが命じる戒めをすべて忠実に守りなさい。そうすれば、あなたたちは命を得る」(申命記8・1)の言葉が繰り返されている。つまり、神の言葉は「あなたは今日、どう生きるか」との呼びかけなのではないか。

 人生とは「今日、今」、神のことばに応えること、明日、将来のために蓄えることではないのだ。イエスの神への信頼が溢れた次の言葉がある。「『何を食べようか』『何を着ようか』と思い悩むな。…あなたがたの天の父は、これらのものがみなあなたがたに必要なことをご存じである。何よりもまず、神の国と神の義を求めなさい。そうすれば、これらのものはみな加えて与えられる。だから、明日のことまで思い悩むな。明日のことは明日自らが思い悩む。」(マタイ6・31-34新共同訳)イエスが十字架刑死を考慮しないで運動したように。

 人生が明日のためなら、前述の話しのように、今日集められるだけ集めようとするのは当然となる。しかし、明日は腐る、当然ではない。現代世界の儲け第一の文明の行き着く先が感染症爆発となったように。コロナ禍の今、飢えているホームレスの方たちを前にどうしたら良いのだろうか。


 昨年からのコロナ感染症爆発は当たり前のことが当たり前ではなくなった。不要不急の外出自粛、三密厳守を受けて教会の当たり前の礼拝が中止になった。ホームレスへの炊き出しも感染症対策のため続けるか休むか、迷った。しかし、炊き出し以外に糧を得られないホームレスの方たちを思うと、何とか続けられたらと思った。幸い、ボランティアの方たちは高齢にも関わらず、頑張って休まず通って来られた。また。夜の配食では、名古屋ダルク(DARC薬物依存症リハビリテーションセンター)に窮状を話して協力をお願いした。名古屋ダルクでは快く受け入れてくれた。やはり、コロナ禍のため対外活動が出来なくなっていたので、リハビリにも良いと言うことだった。

 感染症急増のなか4月初めから21年2月現在まで、一回も休むことなくホームレスへの炊き出しが名古屋ダルクや他のボランティアによって続けられた。それは当たり前ではなく、ある意味奇跡だ。明日や将来を考えるなら炊き出しボランティアをしないだろう。しかし、続いているのは、ダルクのモットーを借りて明日を考えずに「今日、一日だけ」の炊き出しで良いとしたから。結果として続いている幸いなのだ。先の出エジプトの物語のように、人々の相互の配慮が「必要な今日の糧」を万人に供えられ、40年続くのだ。

 ダルクのモットーは仲間に支えられ「今日、一日だけ」薬に頼らない。その積み重ねが結果的に薬からの解放となる。今回、ダルクから教えられたことに感謝。

ダルクへの皆さまのご理解・ご協力を今後ともお願いいたします。



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