「失楽園」

名古屋ダルク後援会代表 竹谷 基


 聖書には、読まなくても誰もが知っている『失楽園』の話がある。かいつまんで言うと、人祖アダムとイ ヴが神から食べてはいけないと言われたエデンの園の「善悪を知る木の実」、それは見るからに美味そうで あり、追い打ちかける蛇の誘いに人は負けて食べてしまい、神から約束を破ったとして、園から追放された、 と言う話だ。(参照 創世記2、3章)

 ご存知のように、創世記の1章から11章までは、聖書の『人間論』 と言われている。従って、神話として書かれているが、人間とは何か、その限界と可能性を読み取るように 招かれる。さて、「食べるな」の禁令は、人間には『自由』と言う基本的人権が天賦されている。

 しかし、 それは野放図ではない、越えてはならない枠の内でしか行使できないことを意味する。例えば、他者の人権 を侵してはならない、と言うこと。『善悪を知る』とは、すべてを知ることを意味するから、全知全能の神 になること、つまり、独裁者になって、他者を支配する者になることを指す。神がアダムとイヴに命じたこ とは、そのことだ。と言うのは、神は人を他者と共生する者として創られたからだ。(参照 創2)にもかかわらず、人は男が女性を、夫が妻を、白人が黒人を、奴隷にしてしまう。そうなれば、共生と言う楽園から 分裂、争い、憎しみの世界に生きるしかないのだ、と『失楽園』は教えている。

 さて、その物語は紀元前10世紀頃、古代イスラエル王国の絶頂期、ソロモン王の時代に書かれたと言われ る。ソロモンは当時世界に並ぶ者のいない知者だと言われ、有名なシバの女王他、世界中からその知恵を尋 ねる使者が来たと言う。彼の治世中、イスラエル王国は経済的文化的繁栄がもたらされた。経済的に莫大な 富を得て、エルサレムに神殿と宮殿を建設し、歩兵から戦車中心の軍隊に変え、貴族階級や知識人階級を成 立させた。(参照 列王記上3章〜11章)しかし、他方では、貧富の格差社会が進み、重税、懲用などの一般 民衆への圧迫があった。

 つまり、『失楽園』物語は、知者と言われたソロモン王の治世は共生の神ヤーウェ ではなく、豊かさ第一の神バアルに従ったことへの批判の隠し絵だと言う。 ところで、そのソロモン王の姿は、現代世界の指導者に、なかんずく、我が国の指導者に重なるのではない だろうか。経済第一で、人権を侵害し環境を破壊し続け、多くの国民のノーの声を無視し、自分の考えが絶 対だと暴走している政治に。富める者、強い者、声の大きい者が我が物顔で生きている現代世界に、引きこ もり、薬物に依存する若者が増えるのは当然ではないだろうか。

弱い立場に立たされた人々が活き活きとなる世界が到来することはダルクを支援する働きの一つです。どう か、みなさまと一緒に共生社会、エデンの園を創って行きましょう。みなさまのご理解とご協力をいただき ますようお願いいたします。

 


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