人生読本「薬に病める若者と歩む」(1)

1994年12月19日放送

名古屋ダルク代表 外山憲治


 「人生読本です。今日から名古屋市にある薬物依存者のための民間リハビリ施設代表、外山憲治さんに「薬に病める若者と歩む」と題してお話しいただきます。外山さんは1950年生まれ、かつてご自身も薬物常用者だった外山さんは、9年前、東京に設立されたダルク(DRUG ADDICTIONREHABILITATION CENTER)に入寮しました。そこでようやく薬物からのがれることのできた外山さんはその経験を生かし、5年前、東海地方ではじめてのダルクを開設しました。」


 はじめ、ボクの勝手でダルクをやり始めたわけですから、まずどうやって運営していったらいいか分かりませんでしたし、運営するにあたって、お金がないものですからそのお金をどうやってつくるのか……、自転車操業でここまでやってきて“良くやれた”というところがボクの本当の気持ちです。

 みんな、だいたいヘトヘトでダルクにやってきます。そして、本当に壊れてしまったというか……人間としてもともといいものを持っていた人たちが薬物に依存することで、自分自身をメチャクチャに破壊してずっと生きてきてますからほとんどヘトヘトですネ。そういう状態で現れる人達をいつも見るわけですが、「大変な病気なんだなあ」といつも思ってます。

 ボクは、その人達が、薬をやめて回復に向かうか向かわないかは分かりませんが、一緒に今日一日だけを生きてみるみたいなことをやるわけですけど、いつも絶望感にかられますネ。「本当にこの人達とやれるのだろうか?」という疑問とか、次への不安とかをよく感じることがありました。

 10年前にさかのぼりますが、福井から若いシンナーの人が東京にやって来ました。

 彼はすごい幻聴と幻覚で医療少年院を出たばかりだったと思うんですが、非常にあばれものというか、自分の若いパワーをもてあました人でした。

 東京で、ボクと出会った初めての入寮者が彼だったんですネ。彼とべったり24時間ひっついている日が続いて、一ヵ月した時に彼は福井に帰ったんですが、この1ヵ月ですごく疲れましてネ。「薬中というのはすごいなぁ」と 自分もそうなんですが 彼と過ごした1ヵ月の経験で薬物依存症という病気が、こんなにも破壊的で周りを巻き込んでメチャクチャにしていくんだと、常々いわれているわけですが、自分が体験できたひとつの出会いだったんですネ。

 ドラマはずっと続いて、その後3年ぐらいしてから、彼がまたダルクに登場したいということになって、福井に迎えにいったんですネ。彼とお父さんと話をして、東京に向かおうと彼を車に乗せて福井市内を走っていたんですが、途中から車が尾行してくるのに気がついたんです。そして、東京に行く前に入院していた病院で薬をもらおうと福井の病院に立ち寄たわけです。そしたら、ついてきた車から刑事が降りてきて、病院の庭で彼が逮捕去れちゃったんです。あとで聞いたら、女子中学生殺人事件というのが起きていて、それについて彼が一番疑わしいということだそうです。

 それから3年半の間、彼の裁判が何度もあって無罪の判決をうけ外に出てきて、半年して名古屋ダルクに登場しました。

 ダルクに入寮して、自分の薬物依存症から抜け出すためにリハビリを始めるわけなんですが、その時の彼の状態が、一人にしておくとうすら笑いを浮かべたり、幻聴が聞こえるんでしょうか、何か幻聴と遊んでいるみたいな感じの人でした。

 「まあ、よくなるわけないよなぁ」と思いながらボクは彼と毎日ミーティングをやったり、いろんな人に出会っていったんですネ。何時シンナー吸って何があってもおかしくないという感じで彼と付き合ってて………。

 でも不思議なことに、夏に現れた彼は11月にダルクの近くにあるスーパーに働きに出たんですネ。「あの暴れ者がスーパーで勤まるわけないよな」と思いながら、ボクは様子を見にいったんですが、彼は三角の帽子を頭に載せて、黄色のエプロンを掛けて肉や野菜を陳列台に並べているわけです。ボクにとってはそれが信じられないことで………あのひどいやつが、こういう風に変わっていけるのかみたいな………変わっていくんだなぁ………みたいな確信がもう一度新たになったことがあったんです。

つづく


「いやしを求めて」目次に戻る